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収益物件贈与の相続税対策
大切な資産を子供や孫などへ引き継ぐには、贈与制度を活用することが方法のひとつとして挙げられます。しかし、制度を正しく理解しなければ、思わぬ納税負担が生じる可能性があります。
「贈与の中でも収益物件の贈与は節税対策として効果的である」と耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。では、なぜ、収益物件の贈与が節税対策になるのでしょうか。
ここでは、現金贈与と収益物件の贈与の相違点や、収益物件の贈与が節税対策になる理由を解説します。また、具体的な節税効果やそれを高めるためのポイント、そして収益物件の贈与を行う際の注意点についても説明していきます。
なぜ収益物件の贈与が節税対策となるのか
収益物件の贈与が現金贈与よりも節税対策として効果的である理由は、贈与税計算における現金と収益物件の評価方法の違いにあります。まずはそれぞれの評価方法の概要を説明します。
- 現金を贈与した場合
現金は、贈与税計算において時価評価されます。例えば、贈与額が現金5,000万円だった場合、課税対象となるのは、5,000万円に基礎控除額110万円を引いた4,890万円となります。つまり、贈与税に設けられている年間110万円の基礎控除額を超えると、課税される仕組みとなっています。
- 収益物件を贈与した場合
収益物件の贈与税を計算する際には、敷地(土地)と建物に分けて評価を行います。敷地(土地)は、原則として路線価という評価額によって評価されます(路線価が定められていない地域は、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算)。路線価は、国が算定する公示価格の8割程度の評価額になるように調整されています。加えて、敷地(土地)は貸家建付地(所有する土地に建てた家屋を第三者に貸し付けている土地)に該当するため、自用地(所有者が自らのために使用する土地)よりも低い評価となります。建物の評価額は、固定資産税評価額に1.0を乗じて計算します。固定資産税評価額は、公示価格の7割程度の評価額になるように調整されています。さらに、建物が貸家であるため、自用家屋(所有者が自らのために使用する家屋)よりも評価は低くなります。
このように、贈与税の計算において現金が時価評価である一方、収益物件は、実勢価格よりも評価額を圧縮できます。これが収益物件の贈与が節税対策になるといわれる理由です。具体的な節税効果については後述します。
実際にどのくらい評価が下がるのか
■設定
1億円の現金で「土地6,000万円、建物4,000万円」の収益物件(満室)を購入したケース
- 土地の評価
まず、土地の評価には路線価を使用するため、評価額は実勢価格の約80%となります。
【土地の評価額(路線価):6,000万円 × 約80% = 約4,800万円】
この評価額をもとに、貸家建付地の評価額計算を行います。貸家建付地の評価額は路線価評価額から控除額(路線価×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)を差し引いて求めます。控除額の計算式に出てくる借地権割合(30~90%)は、路線価が定められている各道路に設定されており、土地に対する借地権者が有する価値割合を表したものです。今回の計算では60%であるものとします。借家権割合は家屋に対する借家権者が有する価値割合を表したもので、ほとんどのエリアで30%となっています。また、賃貸割合とは、アパートの全部屋のうち、実際に入居者がいる部屋の割合です。今回は満室経営中と設定しているため100%とします。これらの設定より、控除額(路線価×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)は以下のように算出されます。
【約4,800万円×60%×30%×100%=約864万円】
以上から土地の評価は、土地の評価額約4,800万円-控除額約864万円=約3,936万円。つまり、実勢価格6,000万円から差分約2,064万円を圧縮できる結果となります。
- 建物の評価
建物は、固定資産税評価額をもとに評価されるため、実勢価格の約70%となります。
【建物の評価額(固定資産税評価額):4,000万円 × 約70% = 約2,800万円】
この評価額をもとに、貸家評価を行います。貸家評価は、建物の評価額から控除額(固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)を差し引いて求めます。借家権割合、賃貸割合は土地の評価額計算の際に用いた値と同様なので、控除額は以下となります。
【約2,800万円×30%×100%=約840万円】
以上から建物の評価は、建物の評価額約2,800万円-控除額約840万円=約1,960万円。つまり、実勢価格4,000万円から差分約2,040万円を圧縮できる結果となります。
- 結果
1億円で購入した収益物件を贈与する場合、その評価額は贈与税計算によって約5,896万円にまで圧縮することができます。上記の計算では圧縮額はおよそ4,100万円にも上ります。1億円の現金を贈与した場合、基礎控除額110万円を差し引いた9,890万円が贈与税の課税対象となることと比較すると、収益物件の贈与の節税効果の高さがよくわかるのではないでしょうか。ただし、これはあくまでもシミュレーションであるため、個別具体的な条件により異なる結果となる点には留意しておきましょう。
節税効果をさらに高めるポイント
上記のとおり、現金贈与よりも、収益物件の贈与のほうが節税対策には効果的です。加えて、土地と建物の節税効果の差を理解し、贈与方法に活かすことでさらに節税効果を高めることができます。そのポイントを見てみます。
▶土地より建物のほうが節税効果は高い
先ほどの具体的な贈与税計算の例で気づいた方もいるかと思いますが、土地よりも建物のほうが節税効果は高くなります。土地の評価は実勢価格のおよそ80%となる路線価をもとに計算する一方、建物の評価は実勢価格のおよそ70%となる固定資産税評価額をもとに計算します。控除額を差し引く前の段階で、すでに土地よりも建物の評価圧縮率が高いことも、節税効果の高さにつながっています。
▶子供から地代を受け取らず、アパートの建物だけ贈与する
土地より建物のほうが節税効果が高いという点を活かし、さらに節税効果を高める方法があります。それは、「親が所有する収益物件の土地、建物のうち、建物だけを子供に贈与する」という方法です。
この場合、収益物件の建つ土地は親が子供に貸している状態になります。そして、子供がその地代を親に支払わないことで、より節税効果を高めることができるのです。このように不動産などを無料で貸す契約行為を使用貸借といいます。子供が親に収益物件の土地に対する地代を払わない、この使用貸借行為は贈与に当たるのではないかと考える方もいるでしょう。国税庁は親子間の使用貸借について、「親の借地権を子供が権利金や地代を支払うことなく無償で使用した場合には、借地権の使用貸借となるが、借地権の使用貸借による借地を使用する権利の価額はゼロとして取り扱われているので、子供に贈与税が課税されることはない」としています。
親所有の収益物件の建物だけを贈与された子供が賃貸経営を行い、土地の所有者である親に地代を支払うという方法をとってはいけないわけではありません。しかし、生前贈与は、もともと将来の相続税対策を目的として行うものです。子供が親に地代を支払うと、子供の財産が減少し、親の財産が増加するということになり、本来の生前贈与の目的に沿わない結果となりかねません。贈与税の節税効果を高めるために、収益物件の建物だけを贈与する場合は、子供から地代を受け取らず使用貸借とするというポイントを押さえておきましょう。
収益物件の贈与を行う際の注意点
■ローン残債がある場合は負担付き贈与となる
ローンを利用して収益物件を購入し、そのローン残債がある状態で贈与を行う場合には負担付き贈与となってしまうため注意が必要です。負担付き贈与とは、贈与を受けた人が財産だけでなく、負担も引き継ぐ贈与のことをいいます。ローン残債のある収益物件を贈与した場合、財産が収益物件、負担がローンの返済ということになります。負担付き贈与の贈与額は、贈与された財産の評価額からローンの残債額を引いた金額で、かつ贈与財産が不動産の場合は「時価」で評価しなければなりません。つまり、前述の評価額の圧縮ができるメリットを得られなくなってしまいます。ローン残債がある場合の収益物件の贈与は専門家に相談しながら、慎重に進めましょう。
■現金贈与もあわせて行う必要がある
収益物件の贈与の際、現金贈与も必要となることを知っておきましょう。賃貸経営においてご入居者様から受け取る金銭は、家賃のみではありません。新規で入居する際に支払われる敷金や礼金、更新時に支払われる更新料などがあります。
敷金は、収入ではなく、あくまでも預かり金です。通常の使用で生じることが考えられる劣化や損耗についての原状回復費用は敷金から差し引くことができないため、退去時には返還が必要となる可能性もあります。これを敷金返還債務といい、収益物件の贈与の際には同時に引き継がれるものとなります。贈与される側にとっては、賃家をもらう代わりに敷金返還債務を負担する負担付き贈与となります。この場合、贈与者が入居者から預かっている敷金相当額の現金を同時に贈与して負担額を実質なくすことによって、負担付き贈与としての取り扱いを避けることができます。
なお、この現金の贈与に対しても贈与税がかかってしまうのではという懸念があるかもしれませんが、贈与される側は敷金返還債務を免れただけであり、経済的な利益を受けたわけではないので、この現金にまで贈与税がかかることはありません。
■アパート経営の知識も引き継ぐ
収益物件を贈与するということは、贈与を受けた方が賃貸経営も引き継ぐということです。賃貸経営は、建物を構えているだけで家賃収入が入ってくるわけではありません。入居者の情報を把握し、取引先と連携をとることはもちろん、賃貸経営の繁忙期、閑散期にオーナーとしてどのように行動すれば良いかなど、さまざまな情報や知識を有することが必要です。当面は、贈与者が賃貸経営を行うケースもあるでしょうが、収益物件の贈与とともに、賃貸経営についての知識も少しずつ引き継いでいくことを忘れないようにしましょう。
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