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2022.10.04

相続発生前後の預金の引き出し

ミノラスホープ株式会社 税理士 岡田 祐介

 相続税のご依頼を受けた際によくご質問をいただく内容がいくつかあります。特に多いのが、下記のような預金に関するものです。預金口座は不動産や株式と異なって誰しもがお持ちですので、ご質問を受けるケースが多いのだと思います。 

  • 亡くなると口座が凍結されてしまうため、その前に預金を引き出したが問題ないか。
  • 亡くなる直前に被相続人から、「葬儀費用に充てるために」などと依頼を受けて、多額の預金を引き出したが脱税など問題ないか。 

脱税やトラブルとなるケース 

 結論から言うと、申告内容が適切であれば税務上の問題はなく、遺産分割についても適切に進めていれば違法性はありません。では、どのようなときに脱税や分割でトラブルとなるのでしょうか。2つ事例をご紹介します。 

(1)相続税を減らすために生前に引き出した場合
 情報社会となった近年はその数は減りましたが、税金を減らすために隠す行為は脱税に該当します。しかし、亡くなる前に預金を引き出していた場合は、それを手元現金として相続税申告に含めていれば全く問題ありません。

(2)自分の取り分を多くするため、他の相続人に内緒で引き出した場合
 「相続人の誰かが相続発生の前後で勝手に引き出して隠した」などの行為は、刑法上の罪になることは少ないです。しかし、民事上では、不当利得返還請求や損害賠償請求が可能となり、取り返すことができるようになっています。そのため、遺産分割協議の前にこれらの訴訟などを行う必要が出てくるため、最終的な分割が終わるまで長い時間が必要になると思われます。 

亡くなる直前の預金の引き出しが相続税申告上で問題となるケース 

 相続税申告上で預金の引き出しが問題となるのは、亡くなる直前の引き出しであることが圧倒的に多いです。 

 先の(1)で記載した通り、引き出したお金を手元現金として相続財産に含めていれば問題はありません。その際に使ったお金については差し引くことができます。よくある使途としては、死亡時までに被相続人や家族のために使った生活費、医療費、介護費、税金、保険料等などがあります。これを集計しておく必要がありますが、亡くなる直前の場合は特にバタバタしていることも多いかと思います。なので、領収書をもらうよう心掛けていただければと思います。 

 集計する期間に関しては、特に決まりはありません。しかし、税務調査官には「生まれてから亡くなるまで」と言われることもあります。通帳をきっちり保管されている方であれば遡ることはできますが、例えば10年以上も前の通帳をお持ちの方はかなり少ないです。 

 そのため、税理士は、その時に保管されている通帳を確認する以上のことはできず、それ以前の使途不明金はないものとして扱わざるを得ません。通帳の有無に関わらず、税理士が通帳のご用意をお願いする際には最低3年としているケースが多いです。これは、亡くなる3年前までの贈与は相続税の申告上相続財産に含めなくてはならないためです。 

亡くなった後の預金の引き出し 

 亡くなった後の引き出しが相続税申告で問題となることはほとんどありません。相続税申告では、亡くなった日時点の残高を相続財産として計上するからです。つまり、亡くなった後に引き出した預金は、残高証明書の預金残高に含まれているため、財産として漏れることがないのです。 

 余談ですが、平成30年の民法改正により、凍結された預金の一部を遺産分割前に払い戻すことができるようになりました。払い戻しができる金額は以下のいずれか少ない金額です。 

  • 死亡時の預金額 × 1/3 × 払い戻しを行う相続人の法定相続分 
  • 150万円 

 これは金融機関ごとに計算されるため、冒頭にあった口座凍結を恐れて焦って引き出す必要がなくなっています。 

 最後に、引き出された方の相続人は説明なく預金を引き出されていると、その後に作成された財産目録に漏れや誤りがあるのではと思われてしまうこともあるかもしれません。そのような懸念がある場合には、税理士に依頼して第三者に財産目録を作成してもらうことをお考えいただいてもよいかと思います。 

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