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司法書士ゆかり事務所 司法書士 荻島一将

売買契約というのは、売主と買主の「売ります」「買います」といった意思表示の合致のみで成立するのが原則です。もちろん、通常は売買契約書を作成して、その意思表示の合致を証拠として残しておく必要はありますが、基本的には、両当事者に売買の意思があれば、契約は成立します。ところが、意思表示の合致だけでは取引が成立せず、特別の手続を必要とするケースもあります。今回は、意思表示だけでは契約が成立しないケースについて、不動産オーナー様に知っておいていただきたい基本的なものをいくつかご紹介します。
会社とその役員との取引の場合
税務対策として、不動産オーナー様が、新規に資産管理会社等の法人を設立し、個人所有の不動産を法人に売却、法人所有とすることはしばしばあります。その場合、個人であるオーナー様は、ご自身が代表者である会社に不動産の所有権を移転し、会社から売買代金を受け取ることになります。すると、個人と会社とで、どちらかが得すると、もう一方が損をするという関係が生じ得ることになります。
このように、契約の双方に共通の人が存在することによって、各当事者の利益が相反することになる取引を「利益相反取引」といいます。利益相反取引では、契約を締結するだけでは取引は成立せず、別途、会社の株主総会決議等により、当該取引の承認を得る必要があります。
親子間の取引で子が未成年者の場合
例えば、不動産オーナー様が、未成年者であるご自身のお子様に不動産を売却する場合や、債務の担保としてお子様の所有する不動産に抵当権を設定する場合も、親子間で利益が衝突する状況となります。通常、未成年者は自分で法律行為ができませんので、親権者である親が子を代理して法律上の意思表示を行いますが、このように当事者の利益が相反する取引の場合は、子の利益を保護するため、親が子を代理することはできません。
利益相反に該当する親子間の不動産取引を行うためには、そのままでは契約を締結することはできず、家庭裁判所により選任された特別代理人が、子に代わって意思表示を行うことになります。そして、家庭裁判所による特別代理人の選任審判書と、特別代理人による意思表示が記載された各契約書等が、所有権移転等の登記申請の際に必要となります。
当事者の意思表示に問題がある場合
次に、認知症で判断能力を失ってしまった親を持つ人が、親を施設に入居させるための金銭を調達する目的で、親が一人暮らしをする実家を売却したい、というケースを考えてみましょう。この場合、法律行為である売買契約のための意思表示が、不動産所有者であるご本人にはできませんので、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立て、選任された成年後見人が、成年被後見人である本人を代理して、家庭裁判所の許可を得て、当該不動産を売却することになります。現行の制度では、成年後見制度は一旦後見人等が付されると、本人の行為能力が回復するか、本人が亡くなるまでは、後見人による財産管理が必要となるため、途中でやめるということが原則としてできません(令和7年5月現在)。一時的な代理人である未成年者の特別代理人制度との大きな違いです。
このような硬直的な成年後見制度を、より柔軟に利用できる制度にして欲しいという要望は多く、厚生労働省の成年後見制度利用促進専門家会議では、成年後見制度の期間・範囲を限定し、制度をより柔軟に使えるようにするための検討が進められています。とはいえ、現状では、判断能力を欠く所有者の物件を売却したいという場合は、成年後見人を付してもらうのが唯一の解決策です。
今回ご紹介したように、不動産取引をする際に、煩雑な手続や調査等を必要とするケースは実は起こりうるのです。適切に対応しないと、契約当事者間に意思表示の合致があっても契約が思い通りに進まなくなってしまうことがあります。個々の物件の事情をきちんと把握し、必要に応じて専門家にきちんと相談しながら取引にあたることが大切です。
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この記事の執筆者紹介

ミノラス不動産
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