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2026.02.01 Minotta掲載記事 資産価値保全

退去時の原状回復

―トラブルを防ぐために、オーナー様が知っておきたい基本知識―

 賃貸経営において、退去時の「原状回復」はオーナー様・ご入居者様双方にとってトラブルになりやすいテーマの一つです。実際に、賃貸契約に関する消費者センターへの相談のうち、3~4割が原状回復に関する内容だと言われています。

 原状回復については、1998年に国土交通省がガイドラインを策定し、2011年の改定で考え方がより明確になりました。「クロスは6年で残存価値1円」「次に貸すための修繕は原則として貸主負担」といった、現在の実務で標準となっている判断基準は、この改定によって整理されています。

 このコラムでは、原状回復をめぐる代表的な判例とガイドラインのポイントをお伝えしていきます。

1.原状回復にまつわる主な判例

 原状回復に関する考え方が整理された背景には、エリアごとの商習慣によるトラブルの多発があります。特に関西圏で多かった【敷金償却(敷引き)】契約を巡る訴訟が、制度整備のきっかけの一つとなりました。

■大阪地方裁判所 判決 ≪平成17年(2005年)4月20日≫

 敷金50万円のうち40万円を敷引きとし、さらに補修費用を差し引いたことに対し、借主が返還を求めて提訴しました。

→判決・・・借主勝訴

 敷引特約自体は無効ではないものの、賃料水準や居住期間、実際の修繕費用と比較すると過大であるとして、相当額を超える部分の返還が命じられました。


■大阪高等裁判所 判決 ≪平成21年(2009年)7月6日≫

 退去時に原状回復費用一式を敷金から差し引いたことに対し、通常損耗まで請求しているとして借主が提訴しました。

→判決・・・借主勝訴

 経年劣化・通常損耗は貸主負担と判断され、敷金の返還が命じられました。


■最高裁判所 判決 ≪平成23年(2011年)3月24日≫

 契約時、保証金100万円、敷引60万円として契約していました。退去時、敷引60万円の他、原状回復費用17万5,500円を差し引きして返金したところ、借主が敷引は消費者契約法に違反するとして借主が提訴しました。

→判決・・・貸主側勝訴

 金額や内容に合理性が認められる範囲においては、敷引き特約は有効と判断されました。

2.原状回復ガイドラインの主なポイント

 国交省ガイドラインでは、原状回復について次のような基本的な考え方が示されています。

●通常損耗・経年劣化は賃料に含まれるため、原則として貸主負担
●故意・過失による損耗は借主負担

 →日焼けによるクロスの変色、家具による床の凹み、水回りの水垢清掃などは通常損耗に該当

●クロス・クッションフロアの減価償却

 →耐用年数6年、3年入居の場合は張替え費用の50%が借主負担の目安

●1面張替えの考え方

 →色合わせのために他の面も張替える場合、その追加分は貸主負担(クロスは㎡または1面単位、ふすま・畳は1枚単位で按分)

●合理性を欠く特約は無効

 →「原状回復費用は全額借主負担」といった一方的な特約は認められません。

3.敷金償却(敷引き)契約は不利なのか

 敷金償却は西日本を中心とした商習慣でしたが、近年はエリアによって増減の傾向が分かれています。首都圏では、賃料水準が高いこともあり、賃料1か月分程度の敷金償却であれば、退去時の原状回復費用を賄えるケースも多く、実務上有効な契約形態といえます。

 一方で、敷金1か月分を超えて追加請求を行う場合は、契約条文があっても「二重取り」と判断される可能性があります。そのため、契約時の丁寧な説明と、退去時の具体的な根拠提示が欠かせません。また、敷金償却分は返還しない金銭であるため、契約時に収入として計上する必要がある点にも注意が必要です。


 築浅物件など修繕費が比較的少ない場合は、敷金償却でも問題になりにくいケースが多く見られます。トラブルを防ぐために重要なのは、周辺物件との競争環境を踏まえ、賃料・設備・契約条件のバランスを総合的に判断することです。

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