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相続税申告における遺言
ミノラスホープ株式会社 税理士 岡田 祐介
今回は司法書士の荻島先生の記事と連動し、「遺言」について紹介します。ここでは相続税申告を行う場合の遺言の有用性について触れていきます。
▶荻島先生の記事はコチラ「遺言の撤回と変更方法」
遺言を準備して、相続人にゆとりを
相続税の申告を行う上で、財産の把握と取得者を決定する必要があります。原則として遺言がある場合、取得者と取得する財産は遺言通りの相続分に応じ、これに沿って、各人の税額の計算を行うことになります。
一方で遺言がない場合、亡くなられた方の財産がどこにどれだけあるのかを把握し、相続人による遺産分割協議を行い、誰がどの財産をどれだけ取得するのか話し合いを行うこととなります。
ここで問題となるのが、これらの手続きを相続税の申告が必要な場合、被相続人が亡くなられてから10か月以内に行う必要があるということです。使っている銀行口座もひとつで財産も自宅しかなく、株も他の投資もないような場合には財産の把握に時間はかからないかもしれません。
しかし、財産は正の財産と負の財産があります。正の財産は必死に探すのですが、負の財産については見過ごすことも少なくありません。生前の様子からは想像ができなかったため財産把握の盲点となることもあります。例えば、品行方正だと思っていた方に、実は消費者金融での借金があった、ということもあるのです。ようやく財産を把握したと思っても、遺言がないと遺産分割協議に入ってもあっという間に10か月が過ぎてしまう可能性が高いです。
遺言を作成する際には、所有する財産を作成者が把握することから始めます。遺言を作成しておくことで、相続対象となる財産が漏れる可能性が減り、遺産分割会議も不要になります。遺言を準備しておくことで、申告期限がある中でも相続人はゆとりを持つことができるでしょう。
遺言がない場合のデメリット
遺言がなく、10か月以内に分割協議が整わない場合、相続税の申告では次のようなデメリットがあります。
1.法定相続分で分割したものとして申告する
分割協議が整わず未分割の財産がある場合、法定相続分で分割して申告します。そのため、取得予定ではない財産についても一時的にかもしれませんが、相続税を負担する必要が出てきます。
2.小規模宅地等の評価減の適用ができない
被相続人が居住していた土地や事業の用に供されていた土地については、一定要件を満たせば相続税評価額の80%から50%の割合で評価を下げられる「小規模宅地等の特例」があります。この特例の適用を受けるには、「遺産分割協議の成立」と「相続税申告」が要件となっていますので、遺産分割協議が整わなかった場合には適用できません。
3.配偶者の税額軽減の適用ができない
夫婦のいずれかが亡くなり、配偶者が遺産を相続した場合、相続した遺産が法定相続分(相続財産の2分の1)相当額か、1億6000万円のいずれか多い金額までであれば相続税がかかりません。これを「配偶者の税額軽減」といいます。これについてもその適用要件として、「遺産分割協議の成立」と「法律上の配偶者であること」と「相続税申告」が明記されています。そのため、遺産分割協議が整わないと適用できなくなります。
4.物納ができない
相続税は現金によって納税を行うこととなっていますが、支払えないときに株式や国債などの有価証券や不動産を物納することが認められています。ただし、物納は申請を行う必要があり、その申請期限が相続税の納期限とされているので、遺産分割協議が整っていない場合には物納財産として不適当とされる可能性があります。
5.農地の納税猶予ができない
農地については相続税の納税猶予制度が認められています。これについても遺産分割協議がまとまらないと、納税猶予制度を利用できません。
ここまでデメリットを並べてきましたが、救済措置として「申告期限後の3年以内の分割見込書」を提出すれば、一部の特例は後日遺産分割が確定したときに適用することが可能です。ただし、後日決まった分割割合に応じて修正申告や更正の請求を行うことになるため、実質的に2回分の申告を行うことになってしまいます。
まとめ
このように遺言の有無によって申告期限までに行うべきことに大きな差がありますので、相続のことをお考えになる際にまずは遺言の作成から手を付けてみてはいかがでしょうか。荻島先生の記事にもありますが、遺言は撤回や変更が可能ですので、書くことへのハードルは多少低くなるかと思います。遺言を書くことでご自身の財産だけでなく、意思を再確認し、受け継ぐ方々が争わないような方法を考えることは相続対策として最も重要なことではないかと思います。
▶岡田先生の記事をもっと読む「令和4年税制改正大綱について」
「配偶者居住権について」
「贈与税、相続税の今後」
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